授業「生命」

daily activities

第4回授業「生命」トウキョウサンショウウオの生態と保全 草野保先生

トウキョウサンショウウオ研究会で調査・研究活動をされている草野保先生に、サンショウウオの将来を考える視点で、東京都多摩地区における生息状況調査結果を報告していただきました。「環境汚染に弱い」、「透過性の弱い皮膚」、「乏しい移動力」、「狭い地域に隔離されて、逃げ出さない」などの両生類の特徴・生活史を説明し、近年の繁殖地での生存率が急激に低下している結果から将来生き延びることが非常に難しくなるとの予想でした。有尾研として、どのような保護活動ができるかを考える必要があると思いました。



第3回授業「生命」大学院生が取り組む環境保全

12月15日に公開講座・授業「生命」第3回を開催。中学生・高校生・教員が参加。
東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻の3名大学院生に講義していただきました。
内容は、①幼少期の自然体験の頻度と強度(体験の種類数)と成人期の保全行動の関係性の研究、②ミヤマシジミが絶滅した地域でのミヤマシジミと草原地帯の復活、③1920年代の針葉樹と広葉樹が共存する針広混交林混交林の森林構造と炭素貯留量の決定要因の解析でした。



公開講座 授業「生命」を開講

中高校生や教員の皆さんに、生命科学分野の研究や環境問題を知ってもらうために、研究者や大学院生に情報提供していただく公開講座を新たに開講しました。オリエンテーションとして、山脇有尾類研究所の所長が、第1回は「山脇有尾類研究所の紹介」(11月18日)、第2回は「考える視点を学ぶ授業生命の案内」(12月14日)のタイトルで、生徒の科学研究へのサポート体制、学校ビオトープの造成計画、ロゴマークの作成過程、文部科学省SSH事業での生徒課題研究の実践例の紹介をしました。




授業「生命」の誕生

生徒は、一日の多くを学校で過ごし、その学校での人間関係を中心に生きています。当然、学校生活が彼らの考え方や生き方に大きな影響を及ぼしていると考えられます。

精神科医フランクルは、主著『夜と霧』で人間について次のように述べています。人間の存在は「生きる意味」を見失うと、精神が衰弱してしまうのみならず生命そのものが衰弱し、ついには死に至ってしまうこともある、というのです。

「生命」に関わる社会問題として、中高生がこの10年間生徒の自殺者数の増加傾向が続いており、コロナ禍が始まった2020年に前年比100人増の499人で過去最多を更新。2022年は高校生が最多で354人、中学生が143人になっているということがあります。また、教師も「心の病」が原因での休職が増加傾向にあり、社会的にも従前のうつ病とは異なる「新型うつ」が増えている状況もあります。

高度成長の(ハングリーであった)時代には、欠乏から解放されるために、貪欲に富や成功に「生きる意味」を求めて、迷いなく歩んできました。そして、私たちは、物質面や衛生面、情報化によってかつてない便利で安全な生活を手に入れました。しかしながら、一方で情報収集に取り付かれ、出口のない欲望の悪循環に陥ちいって、「生きる意味」を見失った人もでてきているのではないでしょうか。

今の時代だからこそ、「生きる意味」を再考することが必要と考え、考えるための材料を提供するための授業「生命」を開講することにしました。


学校教育の変遷

明治5年の「近代国家としての教育改革」、昭和23年の新憲法下の「戦前の反省としての教育改革」、そして、今回の1994(平成6年)の臨教審・中教審の「平成の教育改革」をまとめて、日本の教育三大改革といわれます。
また、世界的には、1990 年代は、「リプロダクティブ、ヘルス/ライツ」を提起したカイロ国際人口会議(1994)、女性の地位向上の指針となる「行動綱領」が採択された北京女性会議(1995)、男女共同参画社会基本法の公布(1999)などに象徴されるように、女性の人権に関連した一連の大きな動きがありました。
学校教育では、1999年に高等学校では学習指導要領の改定が告示され、2002年度からの完全学校週五日制に対応して、学ぶ総量を減らしたうえでカリキュラム編成の自由化が進められました。授業「生命」の実施時期はこの“ゆとり教育”(2002~2011年)の時代と重なります。
1999年にノートルダム清心学園清心女子高等学校で誕生した授業「生命」は、女子生徒の理系進学支援という社会的な使命に応える教育プログラムとして、これまで学校教育が取り込めなかった内容を教科横断的に扱う方針で企画したものです。そして、2006年に文部科学省SSH事業で研究課題「生命科学コースの導入から出発する女性の科学技術分野での活躍を支援できる女子校での教育モデルの構築」で採択を受けた学校で、SSHの教育プログラムの根幹を担う科目に設定され、2015年度まで2期10年間続きました。
 2022年の学習指導要領は、「生きる力」を身につけることを目的としています。新しい時代に即した教育内容を提供し、社会で活躍するために必要な力を身につけることを目指しています。
 2023年11月にリニューアルした授業「生命」が都心の山脇学園の課外授業として再出発しました。今の時代の社会的な役割に応えて、学校の枠を越えた教育活動につながるように運営していきたいと考えています。


授業「生命」の内容

医学、生物学、性教育、環境教育などの「生命」に関わる分野のテーマについて、山脇学園の教師だけで進めていくのではなく、学外の大学や研究所、大学院生、自然観察指導員、在野で活躍する社会人等に積極的に参加していただいて、講演やワークショップやディスカッションなどの実習を通して、多様な視点で「生命」ついて考える授業を展開します。「総合知」に繋がる内容にしたいと考えています。
月に1回の授業(60分)を対面・ZOOMでおこなうことを計画しています。実施内容については、山脇有尾類研究所のホームページでお知らせします。


受講にあたっての心構え

テーマが「生命」ということで、理系(生物・医学・農学・薬学・看護)への進学を考えている人には、教科書の枠を超えた内容を学ぶことによって、将来の自分の進路を考える際の参考になると思います。「将来の社会がどの方向に向かっていくのか」を学び、自分自身の立ち位置をこの講座を材料にして自分自身で考えて欲しいです。
アメリカの大学では、「21世紀は生物の世紀」を合言葉に生物学を理工系学生の必修科目にする動きが起こっています。その流れを紹介した朝日新聞の記事に、MIT教授の「生物学が必要なのは、理工系学生ばかりではない。現代生物学が病理の理解や治療法を大きく変える一方、生物としての人間の理解も急速に進んでいる。21世紀の教養人は、人間というものを知るために、現代生物学を多少なりとも理解することが必要になってくると思う。」という言葉が紹介されていました。
また、現代は「総合知」が求められる時代です。「総合知」とは、人間・社会・自然などの多様な側面を総合的に理解し、論理的に考え、判断する能力で、一つの専門分野だけでなく、自然科学、人文・社会科学、さらには地域社会、企業・行政、文化・芸術など幅広い領域の知見を統合した“知”です。文系であっても、社会を生き抜いていくための科学技術の基礎的知見や考え方を学び、総合知を獲得することが重要で、科学技術に関する知見をいろいろな分野で総合的に活用して社会の諸課題に的確に対応することが求められています。


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