学校ビオトープ

biotope

ビオトープ造成の目的

 学校教育においても、時代の変化に対応して社会的な役割を考えて教育プログラムを再検討する必要があると考えています。2023年に環境教育の一環として、学内にビオトープを造成することを決定しました。都心(港区赤坂)にある本校に通う多くの生徒は、自然に触れる機会が少ないので、生徒と予備調査・設計段階から相談し、造成に取り組み、完成後は生物多様性を増して変化していく生態系の調査及び研究”に取り組むことで、自然を大切にする気持ちを育てたいと考えています。

 港区内にも近隣の多くの学校にビオトープがありますが、造成前に生徒による調査を2023年7月から9月にかけて実施しました。その結果、管理がされないままに放置されていることもあり、具体的な目的を設定して管理することが大切であることがわかりました。
本校のビオトープでは、“希少種野生動物の保護に生かす”という目的を設定しました。具体的には絶滅が危惧されている動物として、有尾類を保護することを考えました。東京都に分布し、近年激減しているトウキョウサンショウウオが生息できる環境をつくることにしました。この観察型ビオトープを生徒の科学研究支援の柱にしたいと考えています。


有尾類の生息環境を再現

両生類は生息環境改変の影響を受けやすく、環境世界的規模で激減しており、多くが絶滅危惧種に指定されています。「炭鉱のカナリア」と呼ばれているように、地球環境問題に警鐘を鳴らしている存在なのです。特に、日本の有尾両生類はそのほとんどが希少種として保護されており、現代に生きる私たちにとって、両生類の生息する環境の保全と保護対策に取り組むことは環境を破壊してきた人類としての責務です。
トウキョウサンショウウオは、日本の固有種で、環境省により絶滅危惧種II類(VU)に指定されています。ビオトープ造成の最終目的は、地元に生息するトウキョウサンショウウオ(絶滅危惧ⅠB種)の保護への社会貢献です。ビオトープで自然産卵する生息環境を再現し、その研究成果を種の保全に生かすことです。本来の繁殖地と違う環境で成長し、自然産卵して繁殖できるのか。造成・維持管理する過程を環境学習の教材と捉え、生徒・保護者への環境啓発活動につなげたいと考えています。


地域での有尾類の保護活動と連携

2023年度からトウキョウサンショウウオの繁殖地である東京都八王子市の川口ビオトープ(東京都胚王子市)で卵嚢を採取させていただき、孵化した幼生を上陸する段階まで育てて、元の場所に放流する活動を始めました。将来、川口ビオトープの気象データ、水質データ、産卵数の推移、孵化率、奇形の発生率などを比較して、生息に影響する要因を解明したいと考えています。


これまでの取り組み

1989年にノートルダム清心学園清心女子高等学校のU字側溝でサンショウウオの死体を見つけた時期に、何の卵かわかなないということで生物教室に持ち込まれたのが、サンショウウオ(現在のセトウチサンショウウオ)の卵嚢でした。そのことがきっかけになって、生物部の有尾類の研究が始まりました。1991年に、飼育下で成熟した成体の自然産卵を観察することに成功しました。
1980年代後半に日本中でゴルフ場建設ラッシュが起こりました。ゴルフ場建設予定地に生息しているということで、調査の依頼があったのがオオイタサンショウウオです。オオイタサンショウウオ(1996年環境省絶滅危惧Ⅱ類指定)が持ち込まれ、新たな研究対象になりました。飼育下の繁殖方法の確立に取り組み、自然産卵と人工授精の方法を確立しました。その後、イモリ属の貯精嚢についての研究にも取り組みましたが、約30年間の有尾類の研究で培った飼育下の繁殖技術を応用して、ビオトープでの自然繁殖を目指してトウキョウサンショウウオの保全に取り組みます。


環境教育への波及

学校のビオトープが生徒の科学研究に果たす役割を考えながら、ビオトープを維持・管理する仕組み(太陽光パネルなど)、生物の観察手法、さらには生命の尊厳を学ぶ機会を提供でききることの教育的意義は大きいと思います。地域や都内児童・生徒の皆さんに見学の機会を設けることは環境問題への意識を高めることにつながると考えています。将来的には、希少種であるトウキョウサンショウウオが生息するビオトープをとおした交流で、環境教育のネットワークが拡大することを願っています。


授業「生命」との連携

「生き方」を教育するとは、「考え方」を一定方向に導くというものではありません。与えられた材料(教育内容)を生徒自身で学んでいく過程で、これから生きていく力になる「考え方」を身につけていくものです。このような考えで課外授業として本研究所が設定したのが自由参加型の授業「生命」(2023年11月から開始)です。
「生き方」を考える教育では。教科指導のようにより多くの知識を持った優位なものが劣位なものに一方的に教えるという図式が成り立ちません。適切な材料を提供できるかどうかが大切で、教える側がどのような経験をし、どのように生きてきたかという生き方が問われることになります。その意味では、自然環境の保護や環境学習への取り組みに関連した内容も授業「生命」に組んでいます。


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